幾らかの躊躇いと好奇心。
この写真の人は誰、と問うた時の感慨だ。無邪気に発するには歳を重ねすぎていて、沈黙が何にも勝る賢明さであると知る前の遠い遠い昔の記憶だ。今思えば敏感に感じ取っていたのかも知れない。家族がその写真立てに眼を向ける時の、普段とは明らかに異なる性質の空気を。
お前のおじいさんだよ。
ふわりと、身体を抱き上げた両腕は温かかった。
頭を撫でる掌はまるで包み込むように暖かく、張り詰めた緊張が瞬く間に溶けていった。
どのくらいそうしていただろうか、しばらくして父は言った。
覚えていないのも無理もない。
この人はお前が生まれるずっと前に亡くなったんだ。
お聞き。ヴィック。
お前のおじいさんは、あのグリンデルバルドを相手に勇ましく戦って死んだんだよ。
その眼差しを。
以来事あるごとに祖父のことを語るようになった両親の眼差しを、幼い少年は愛した。愛する人達によって繰り返し語られる英雄憚の中の祖父の勇姿を愛した。鈍い痛みと誇り、故人を懐かしむ哀愁を伴った穏やかさ。どこか厳かなそれ。
家族の間に立ち込めるもうひとつの感情に気付いたのは、祖父にまつわる話をした後に決まって立ち込める、物憂げな沈黙の理由を知ったのとほぼ時を同じくしていた。
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